高槻駅から歩いてすぐ、高槻センター街に100年近く続く文房具店「文具クワウチ」 があります。
高槻に住んでいる人なら、誰もが子どもの頃に一度はお世話になったことがあるのではないかと言われるほど、長年この地に根ざして文房具を届けてきました。
昭和・平成・令和と時代が変わっても、変わることのない文房具の価値とは?そして文具クワウチの存在意義とは?桑内株式会社・専務取締役の桑内彩さんにお伺いしました。
▪️課題
創業95年を迎える文具クワウチさんは、代替わりの時期を迎えていました。商店街に人が溢れ、物が売れた時代が終焉し、いかにモノの背景を伝え、購入することの価値や意義を伝えるかが重視されています。時代の波に乗りながら、先代達が受け継いできた会社の強みやらしさをどのように事業に活かしていくべきなのか。次の100年を考えるタイミングで、ご相談をいただきました。
▪️支援内容
補助金を活用した新規事業開発
▪️支援内容の成果
・補助金の獲得
・WEBページの制作(ECサイト、オウンドメディア、会社サイト)
・教室事業コンテンツの制作の型づくり
・オリジナル文具商品の開発
地域密着の文房具屋さん
文具クワウチは1930年創業。高槻センター街で、煙草の販売から始まりました。1952年には法人化し、現在は文房具の販売やカフェ事業を展開しています。
SOU代表の仲田と桑内さんが出会ったのは2022年。仕事の関係者からご紹介いただいたことがきっかけでした。
「仲田さん含め2名が講師として来てくださり、最初は新規事業の作り方についてのレクチャーを受けました。私の親世代までは物が売れた時代でしたし、商店街にもたくさんの人通りがありました。しかし、時代は移り変わり、物は売れなくなりました。私たちの代では何をしていくのかを考えていくことが必要なタイミングでしたが、ビジネス的な視点で事業を考える機会はこれまであまりなかったので、用語を覚えるのにも苦労しました」
仲田の役割は、桑内さんがインプットしたことを踏まえて、会社として何をしたいのか、桑内さんがどこにつまづいているのかを明らかにし、寄り添っていきました。
「最初は、伴走支援がどのようなものか分かりませんでした。現状を踏まえて事業や会社をより良くするためのお手伝いをしてくれるのかなという印象でしたね」
仲田は月2〜3回のペースで文具クワウチを訪問。対話を重ねることで会社の強みや弱みを整理し、会社の価値を再定義していきました。
コロナ禍を経て新規事業を立ち上げ
新規事業のレクチャーを終えてから半年後、「文房具のECコマース販売の支援をしてもらえないか」と再度、仲田に連絡が入りました。
「伴走支援をしてもらった半年で、自社の棚卸しをし、見えてきた物がありました。そこで以前、伴走してもらったことをヒントに、新規事業を作れないかと考えました。すぐに仲田さんの顔が思い浮かびましたね」
ECコマースに注目したのは、初回の伴走支援で強みを見直した際に気づいた文具クワウチの価値を最大限に発揮するためでした。
「『どこでも文房具が買える時代に、文具クワウチで買う価値とは?』とSOUさんから問いをいただきました。以前、大手ECモールへ出店もしていましたが、私たちは姿の見えないお客様に対する商売は素人ですし、どうしても価格競争になります。さらにコロナ禍があり人と会えない状況になった時、私たちの強みを活かしてWebでもお商売をしたいと考えました。仲田さんから、『文具クワウチさんで買うという体験がありますよね』と言ってもらい、強みが見えてきたんです」
この強みはヒアリングの中で見えてきたもの。実は高槻に住む多くの人が、子どもの頃に桑内で文房具を買った体験があり、親しみを感じていることがわかりました。
また、様々なお店で売られている文房具を、なぜあえて文具クワウチで買うのか? を突き詰めて考えていくと、スタッフの専門知識が豊かであることはもちろん、文具クワウチが届けたいと願っている「書くことの楽しさや喜び」をお客様が受け取り、リピートに繋がっていることが見えてきました。
そこで着手したのが、文具クワウチの理念や体験を反映したECサイトとオウンドメディアの新規制作と、会社サイトのリニューアル。同時に、補助金にも申請し、新規事業に投資する資金集めもサポートしていきました。

文具を愛する人のためのオリジナル文具の開発
SOUのネットワークから、信頼できるWeb制作会社とデザイナーを紹介。ECサイトのコンセプトを「大切な瞬間に寄り添う文具探しをお手伝い」とし、デザインや使い心地を厳選した文房具を取り揃えました。また、文具クワウチの想いをしっかり届けるため、会社サイトのリニューアルに合わせてロゴも一新し、リブランディングを進めました。
「創業95年を迎え、『本物志向、地域密着、原点回帰』の考えをもとに、地域に根ざした会社になっていきたいという想いをロゴに反映しました。家紋である鷹の羽が支える新たなシンボルマークになりました」
また、対話を重ねる中で、問い合わせ時にはなかった、オリジナル文具商品の開発と教室事業コンテンツの制作も進めていくことになりました。
「書く楽しさや喜びを生活の中にどのように届けていくのかを、SOUさんと一緒に考えました。そこで出てきたのがオリジナル文具の開発と教室事業という二つの新規事業です」
オリジナル文具第一弾として誕生したのが、ビンテージレザーペンケース。「大切な一本を収納できるケース」をコンセプトに、上質さとビジネスシーンでも使いやすいサイズ感を実現しました。
「機能面はもちろん、文具を愛する人の日常に溶け込むものを目指しました。内部には筆記具を保護するレザーポケットが付いており、大切な文具を守ることができます。レザーは経年変化で使うほどに味わいが増すので、使うほどに愛着が湧くはずです」

試行錯誤を重ねて完成したペンケースは、シンプルなデザインの中に想いと知恵がたくさん込められています
カルチャー教室を地域コミュニティに
また、長年開講してきた書道教室をヒントに、カルチャー教室事業を立ち上げ、デジタル化が進む現代に筆記文化を残そうとしています。
「店舗の2階をハブスタジオとしてリニューアルしました。これも、SOUさんから問いをもらったことがきっかけです。ハブスタジオが書く楽しさや喜びを体験できる場になることで、気に入った文房具を買って帰り、ゆくゆく売上に繋がったり、ここが地域コミュニティのハブのような場になったりするといいのではないか。そうすることで、創業100年以降も地域と共に歩む文房具屋さんとして私たちの価値を発揮できるのではないかと考えたんです」

SOUは教室の外部講師探しにも協力し、支援期間中に「アクリル絵具の基礎講習会」「カリグラフィー・ワークショップ」「パステルアート1DAYクラス」などのワークショップを企画・実施しました。中でも、文具クワウチらしさが溢れたワークショップが「終活ノートで始める新しい習慣」です。
「行政書士の先生を講師にお招きし、遺言状を書くワークをしました。遺言状は最後のラブレター。手書きのメッセージには、受け取った人がその温かさや気持ちを長く感じることができる特別な力があります。何を残して人生を全うするのかを考えた時、どのペンを使いたいかまで考えるでしょうか。終活セミナーは世の中にたくさんありますが、私たちだから届けることができるものがあるのかなって」

最初はSOUが企画や運営のお手伝いをしていましたが、伴走期間中に社内で運営できるだけの経験を積み、運営の型が出来上がりました。始めたばかりの頃は集客に苦労したものの、今ではリピーターも増え、毎回安定した参加人数を動員しています。
Action
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Phase 1
情報整理・目的設定
対話と傾聴で“原因”を掘り起こす- 金融機関より、紹介を受け参画。
- 新規事業開発の進め方や取り組み方法を整理し、事業開発の目的を設定 -
Phase 2
課題設定
”問題”を実現可能な”課題”に変換-歴史や市場リサーチと事業フィロソフィーを設計、自社の強みを知るワークショップを展開
-業界全体が抱える「モノの時代の終焉」から「文化を体験する時代(=コトの時代)」のための事業コンセプトを設定 -
Phase 3
解決策デザイン
最小投資で最大効果を設計-補助金を活用した事業づくりをサポート
-新規事業をつくるプロジェクトチームを結成し、マネジメントを支援(デザイナー、WEB制作ディレクター、プロモーター、商品開発者などをアサイン) -
Phase 4
実行伴走
課題解決の”実装”フェーズ- 理念を届けるECサイトやオウンドメディア制作支援、商品開発等の試みを、企画から現場のマネジメントまでを支援
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Phase 5
自走化
自走・内製化へのバトンパス- 取り組みの振り返りから、商品開発、教室事業運営のノウハウを言語化
- 事業開発後のマーケティングや広報活動のための外部パートナーを紹介
会社を変えた外の人との出会い
こうして文具クワウチの2回目の伴走支援は終了。現在も、ワークショップやオリジナル文具の開発第二弾も続いています。改めて、SOUが伴走させてもらった期間を振り返ってみて、印象的だったことは何でしょうか。
「やっぱり、色々な人とのご縁が繋がったことです。事業が形になったことはもちろん良かったですが、高槻のまちや外部講師、Web制作会社やデザイナーなど、SOUさんのおかげで面白い方々と出会うことができました。今までは全部自分たちでやってきましたが、これからは外の力も借りながら事業を展開していきたいです。そして、モノの背景を知ることで、生活が豊かになることを感じられる方が一人でも増えるようにこの場所でお店を続けていきたいですし、文字を書く楽しさや喜びを届けていきたいですね」
文/北川 由依
関係者の声
SOU様との出会いを通じて、自社の強みを見直し「桑内で買う価値」を再発見できたことが大きな変化でした。これまで自分たちだけで事業を考えてきましたが、信頼できる仲間や専門家と協働することで新しい学びが生まれ、地域に根ざした文具店として未来へつながる一歩を踏み出せたと感じています。これからもコミュニティのハブのような場所になれるよう努力してまいります。